ニュースレター第16号を公開しました!Web版前半


 SWSPニュースレター第16号を公開しました。特集では、1月に行われた「SWSP市民フォーラム2026」の様子を掲載しています。昨年に続き、NHK札幌放送局様と共催で開催し、145名の方にご参加いただきました。

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目次

 後半はこちら

  ・ポスター発表

  ・市民調査「みんなでサケさがそ!」フォトコンテスト優秀作品

  ・豊平川の自然や野生サケを保全するためにできること

  ・閉会のごあいさつ 岡本 康寿

  ・来場者のアンケート結果

  ・「ちびリンまんが⑮豊かな海になる理由」かじさやか

  ・2025年度SWSP活動記録

  ・SWSP支援企業のご紹介

  ・SWSP STAFF


開会のごあいさつ

森田 健太郎(SWSP共同代表/東京大学大気海洋研究所)

 今日は雪の中お越しくださり、どうもありがとうございます。SWSP、札幌ワイルドサーモンプロジェクトは、札幌を流れる豊平川において、この地域の生物多様性を重んじ、豊平川のサケの個体群の野生味を最大限向上させることを目指して、2013年に結成された市民グループです。

 

 最近、「温暖化でサケが捕れなくなっている」「カラフトマスが減って知床のクマが困っている」といったニュースを聞いたことがある方も多いのではないかと思います。そこで、今年の市民フォーラムのテーマは「気候変動の影響を受けるサケマスたち」としました。

 こちらの魚は北海道のカラフトマスとサケです(写真1、写真2)。この2種が日本のどこに生息しているのか、特に分布の南限について示したものがこちらの地図です(図1)。カラフトマスの分布の南限は、日本海側が八雲町熊石の見市川、太平洋側は岩手県の安家川です。サケについては、日本海側は佐賀県の松浦川、太平洋側は利根川です。これらの分布は、どこかちぐはぐしているようにも見えますね。カラフトマスは太平洋側の方が南まで分布し、サケは日本海側の方が南まで分布しています。これは海水温との関係で見ると納得できます。カラフトマスの分布の南限は水温が8℃、サケは水温が16℃のラインと一致しています。日本の周りには日本海側と太平洋側で異なる海流が流れているため、同じ緯度であっても水温が変わってくるのです。サケの仲間の分布には、水温が非常に重要であるということがわかるかと思います。

写真1 カラフトマス
写真1 カラフトマス
写真2 サケ
写真2 サケ
図1 4月の平均海面水温(出典:気象庁発表資料)
図1 4月の平均海面水温(出典:気象庁発表資料)

図2 等温度線の移動に対する魚類分布の変化と人為的影響の関係(Lenoir et al., 2020 を改変)
図2 等温度線の移動に対する魚類分布の変化と人為的影響の関係(Lenoir et al., 2020 を改変)

 近年、地球温暖化によって、海水温の等温度線が少しずつ北上していると言われています。このグラフの横軸は等温度線の変化、縦軸は魚の分布の変化、色は環境負荷の大小を示しています(図2)。等温度線が北上すればするほど、魚の分布も北上することを意味しています。特に緑色の箇所で分布の北上が顕著で、その箇所というのは環境負荷が大きいところなのです。一方、環境負荷が小さい水色の箇所では、等温度線が変化しても、それほど魚の分布は変化しないということが示されています。ここで言う環境負荷とは人為的影響、特に漁業の影響を指しますが、それを強く受けている魚ほど、気候変動による分布域の変化が著しいということを示しています。

 昨年、北海道産のカラフトマスや岩手県産のサケをスーパーマーケットで見かけました。私たちは、これらの魚を今も食べるために利用しています。この後の講演で、サケやカラフトマスの現状について紹介していただきますが、このフォーラムが、サケマスと今後どのように付き合っていけば良いのかということを考える機会になれば、非常に嬉しく思います。それでは、フォーラムをどうぞお楽しみください。


講演1 本州・三陸サケの今

峰岸 有紀SWSP/東京大学大気海洋研究所)

 SWSPのメンバーで、東京大学大気海洋研究所の峰岸と申します。東京大学ではありますが、普段は岩手県の大槌町にある臨海施設でサケの研究をしています。東日本大震災があったところなので、聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。今日はそこで見てきた「三陸のサケの今」ということを、皆さんと共有したいと思います。

図1 2017年のセミナー時のタイトルスライド(背景写真:安家川に遡上するサケ)
図1 2017年のセミナー時のタイトルスライド(背景写真:安家川に遡上するサケ)

 これは、2017年8月に、SWSPの勉強会として北海道大学でセミナーをさせていただいた時のタイトルスライドです(図1)。私が大槌に来て2年目で、サケの調査を本格的に始めるシーズンの直前で、すごくワクワクした気持ちでセミナーをしました。まさかその約8年後に、若干暗い気持ちで三陸サケのお話をすることになるとは、この時は全く想像もしていませんでしたが、今の状況をぜひ皆さんに知っていただけたらなと思っております。ちなみにこの写真は、先ほど森田さんからご紹介があった安家川に遡上しているサケです。後でお話ししますけれども、この年はたくさん遡上していました。

三陸サケを取り巻く環境

写真1 三陸の川の周辺の風景
写真1 三陸の川の周辺の風景

 三陸のことについては、2020年と2021年のSWSP市民フォーラムで、サケと人の関わりというテーマで同じ東京大学の青山潤先生や福永真弓先生が講演されたので、お聞きになった方もいらっしゃるかもしれません。ここで、復習も兼ねまして、三陸のサケを取り巻くいろいろな環境をご説明したいと思います。自然環境としては、先ほど森田さんからあった通り、分布の縁辺部に非常に近いところで、基本的に水温が高い状態にあります。北海道のように川が結氷するということはありません。三陸の川は非常に狭く短いものが多く、すぐに大海原に繋がるわけではなくて、一旦小さな湾に注ぎます。そうした小さな湾がいくつもあるリアス式海岸を形作っているのが、急峻な地形です。急峻だからこそ平地が少なく、河川や沿岸のすぐそばまで市街地化しており、家の窓から川が見えるということも三陸では珍しくありません(写真1)。そして、市街地化しているからこそ、河川や沿岸で何かがあると、すぐに復旧工事を行う必要があります。浚渫なども定期的に行わなければ、河床が上がり洪水のリスクが高くなるという、ある意味で結構ぎりぎりな環境にサケが遡上しています。また、三陸のとても大きな特徴の1つが、ほぼ全ての河川が孵化放流の対象河川になっているということです。つまり、サケの遡上時期になると、多くの河川でサケを捕獲し、孵化放流に回しています。その経営母体のほとんどは海の漁業協同組合(漁協)であり、その多くは、サケに非常に強く依存した経営をしています。古くは江戸時代からサケが遡上しており、そういった長い歴史があるからこそ、新巻鮭に代表されるような食文化・お祭り・独特な儀礼など、三陸ならではの文化というものが受け継がれています。その文化に基づいた地域教育も、盛んに行われています。

三陸サケの生態

― 長い時間軸で生きる三陸サケ 

図2 大槌湾に流れ込む3河川(出典:Google Earth(© Google))
図2 大槌湾に流れ込む3河川(出典:Google Earth(© Google))

 こちらは大槌湾の航空写真です(図2)。三陸の典型的な風景で、大槌湾の場合は北に向かって湾口が開いています。私たちのセンターは、湾の北岸の、星印で示した箇所に位置しています。私たちのセンターに近い側から、大槌川、小鎚川、鵜住居川という3本の二級河川がこの湾に注いでいます。大槌川と鵜住居川は、現在でも孵化放流を行っています。小鎚川は、震災の前までは孵化放流を行っていましたが、震災後はいろいろな事情があり孵化放流を行っていません。私が着任した頃も、孵化放流のある川とない川が1つの湾に注ぐという状況ができていたため、自然産卵やサケのことについての調査を始めました。文献を調べてみると、1960~80年代頃までは研究がたくさんあるのですが、それ以降はほとんど手付かずの状態でした。情報が非常に断片的で、どこから手をつけたら良いのかという状態でしたが、孵化放流を行っている河川については、孵化場がきちんと情報を集めていました。その情報を参考にしながら、親魚については、遡上時期・産卵時期・遡上量・親魚のサイズ・性別・遺伝・産卵床の環境などを調査してきました。稚魚については、河川・湾内・湾外での分布や流下の時期などを調べてきました。その結果を共有したいと思います。

図3 小鎚川の調査区間およびサケの産卵床分布
図3 小鎚川の調査区間およびサケの産卵床分布

まずは、孵化放流をしていない小鎚川です。震災後に孵化放流を行わなくなって以降は、サケがいつ遡上してどこに産卵床ができるかなどの情報が一切ありませんでした。そこで、ここに示す3kmの区間をひたすら歩きました(図3)。その結果、三陸のサケの自然産卵は、10月前半~2月上旬頃までの5か月間ほど続くことがわかりました。主な産卵場は、河口から1~2km上流の約1kmの区間でした(図3の黄色丸)。産卵床の数は、シーズンにより前後しますが、最大で360床ほどできていました。その分布は、シーズン初期は調査区間全体に見られるものの、シーズン後半は下流側にしかできないということも見えてきました。

写真2 小鎚川に遡上するサケ(2018年)
写真2 小鎚川に遡上するサケ(2018年)

このサケの写真は2018年の小鎚川で撮ったものです(写真2)。SWSP/北海道魚類映画社の向井さんが大槌まで来て撮影してくださったことを今でもよく覚えておりますが、この年は手前の二匹だけではなく、奥にもたくさんのサケが泳いでいました。

図4 稚魚の体サイズの頻度分布(左)および時期による体サイズの変化(右)(出典:Kawakami et al., in prep.)
図4 稚魚の体サイズの頻度分布(左)および時期による体サイズの変化(右)(出典:Kawakami et al., in prep.)

 自然産卵で生まれたサケの稚魚がどのように降下しているのかということも、孵化放流を行っている大槌川と比較しながら調査してきました。こちらの左のグラフは稚魚の体サイズの頻度分布を表しており、横軸が尾叉長、縦軸が個体数です。右のグラフは、時期による体サイズの変化を表したものです(図4)。大槌川は孵化放流があるため、平均54mmで、時期によってサイズに大きなばらつきがありません。一方、野生魚しかいない小鎚川は、40mm前後の比較的小さな稚魚が1~4月までダラダラと流下します。年によりますが、5月末頃まで流下があり、最後の1か月ほどだけサイズが増大するということがわかっています。このような河川間の違いは、孵化放流の有無や、湧水の豊富さや自然産卵の量などでも変わってきます。

図5 大槌湾内のサケ稚魚の分布(Minegishi et al., 2023 を改変)
図5 大槌湾内のサケ稚魚の分布(Minegishi et al., 2023 を改変)

 先ほど申し上げた通り、降下した稚魚はすぐに大海原に出るのではなく、湾の中で少し生活すること自体はわかっていましたが、いつどこにいるのかはわかっていませんでした。そこで、環境DNAを使ってサケ稚魚の分布を調べたところ、4月をピークに1月末~6月に湾内に分布していることがわかりました(図5)。小鎚川の自然産卵も5か月間続きましたが、こちらもまた5か月間です。また、3月頃から離岸を徐々に開始することもわかりました。

図6 大槌湾内の動物プランクトンの分布(Minegishi et al., 2023 を改変)
図6 大槌湾内の動物プランクトンの分布(Minegishi et al., 2023 を改変)

稚魚が湾内で食べると考えられる餌生物の動物プランクトンの分布を調べたところ、種類や年によって分布が全く異なることがわかりました(図6)。もともと親潮域にいる、大型のカイアシ類や端脚類などの比較的栄養価が高く稚魚の成長にとって良いと思われる餌生物の分布は、親潮が三陸沿岸に接岸するかどうかやそのタイミング・距離などの影響を大きく受けるということもわかってきました。

 このような調査を少しずつ積み重ねると、三陸のサケは、遡上時期・産卵時期・流下時期・湾内滞留期をいずれも長くしておくことで、環境変化の激しい分布の縁辺部でその変化に適応し、絶妙なバランスの上で生命を繋いできたのだろうと推察されます。

 そして、本日のテーマ「今どうなっているの?気候変動の影響を受けるサケマスたち」に合わせると、実はこの1枚のグラフで済んでしまいます(図7)。横軸が年、縦軸がサケ親魚の個体数を表しています。赤いバーは大槌川の孵化場の捕獲親魚数、緑のバーは私の小鎚川の調査で数えたホッチャレ(死骸)の数です。2024年と2025年は、私の都合で調査回数が少なかったり、クマの影響で調査区間を短くせざるを得なかったりしました。そのため並列に比較できるものではないのですが、それでも一目瞭然で、何の説明もいらないくらい激減しているということが見て取れると思います。今シーズン、私は8個体しか見ていないのですが、この写真はその1/8のホッチャレです(写真3)。

図7 大槌川と小鎚川における回帰親魚数の経年変化
図7 大槌川と小鎚川における回帰親魚数の経年変化
写真3 小鎚川で確認したサケのホッチャレ(2025年)
写真3 小鎚川で確認したサケのホッチャレ(2025年)

 三陸のサケの現状をまとめると、科学的にはもはや地域個体群としてほぼ消滅しかけている状態で、1つの生物がこの河川からいなくなっていっているため、生物多様性も低下していると言えます(表1)。先ほど申し上げた通り、三陸は経済的にサケに強く依存しているため、直売の縮小・価格の高騰・孵化放流事業の維持が困難になっています。文化的にも、お祭りや新巻鮭などの伝統が継承できなくなっていき、それに付随して、教育活動の制限や人々の無関心化が進むという社会的な状況も見受けられます。

1 三陸サケを取り巻く現状

科学的: 地域個体群の消滅、生物多様性の低下

経済的: 直売の縮小、価格高騰、

      孵化放流事業の維持困難(=漁協の経営悪化)

文化的: 伝統(お祭り、新巻鮭、漁)の継承困難
社会的: 教育活動の制限、無関心化

長期的に減少してきた三陸サケ

図8 岩手県における回帰親魚数と放流尾数の経年変化(データ出典:水産研究・教育機構)
図8 岩手県における回帰親魚数と放流尾数の経年変化(データ出典:水産研究・教育機構)

 先ほどのグラフを見ると、かなりサケが減ったなと感じるかと思うのですが、岩手県全体ではもっと以前から回帰親魚の数が減っています。このグラフは、横軸に年、赤いバーが回帰親魚数、青い折れ線が稚魚の放流尾数を表しています(図8)。私の調査は右下の緑で囲った年ですので、既にかなり減ったところから調査を始めていることがわかります。1970年から追っていくと、1990年代後半をピークに、2000年代にざっくり半減、2010年代にさらに半減、2020年代にはさらに減少しているという状況です。2011年に関しては、3月に東日本大震災が発生したため、稚魚の放流も親魚の捕獲もなかなかうまくいかず、数が少ないことがわかります。気候変動とは違いますが、自然災害でもこういった影響が出るということも情報として提供します。

気候変動と三陸サケ

 最後に、気候変動がサケにどのように影響しているのかを考えながらお話ししたいと思います。気候変動と聞いて、まずイメージされるのは温暖化だと思います。その温暖化の影響は、三陸にももちろんありました。私の専門外ですが、強い影響があったものの1つは、やはり黒潮の異常北偏と親潮の弱勢化です。私が学生の頃は、三陸沖は親潮と黒潮がぶつかる良い漁場と言われていました。しかし一般的には、黒潮はそこまで北上せず、親潮はそこまで南下しません。ところが、それが起こったのが2022年以降の黒潮大蛇行です。黒潮大蛇行に付随して、黒潮続流が三陸沖まで来るようになり、とても温かい水が三陸沖に停滞しました(図9、図10)。具体的にどのようにかは別として、これがサケ親魚の回帰に少なからず影響したであろうと考えています。

図9 2023年7月三陸沖の水温の鉛直断面図(出典:気象庁発表資料)
図9 2023年7月三陸沖の水温の鉛直断面図(出典:気象庁発表資料)
図10 2023年7月三陸沖の400m深水温分布図(出典:気象庁発表資料)
図10 2023年7月三陸沖の400m深水温分布図(出典:気象庁発表資料)

 こちらのグラフは、親潮の弱勢化を表しています(図11、図12)。図11の横軸は年、縦軸は親潮の南端の緯度です。ばらつきはありますが、ざっくり右肩上がりだとわかります。つまり、親潮が南下しなくなっているということです。ここには2015年までのデータしかありませんが、図12を見ると、親潮が大槌湾内に流入したのは2016~2021年の6年間の中で2か年だけでした。親潮が湾内に入らないことで、サケ稚魚にとって良い餌が減少し、稚魚の生存や成長に影響が出ている可能性も考えられます。

図11 親潮の南端の緯度(春季)の経年変化(Kawakami et al., 2025 を改変)
図11 親潮の南端の緯度(春季)の経年変化(Kawakami et al., 2025 を改変)
図12 大槌湾の水温の推移(データ出典:大槌沿岸センター)
図12 大槌湾の水温の推移(データ出典:大槌沿岸センター)

 さらに、三陸にとって大きなことは、台風や大雨がとても増えました。2016年には、観測史上初めて東北地方太平洋側に台風が直接上陸しました。それまでももちろん台風は来ていましたが、それは西日本や南日本に上陸してから移動してきたものでした。しかし、2016年は勢力が強いまま直接三陸に上陸しました。岩泉町の高齢者施設が大きな被害を受けたことは、覚えていらっしゃる方も多いかもしれません。2016年以降は台風が頻繁に来るようになり、大雨が発生する頻度も上がりました。昨年11月の大雨では、初鮭儀礼の又兵衛祭りが行われる津軽石川で、道路まで水があふれるような増水がありました。このような増水が起こると、サケを捕獲するウライや建網が壊れてしまいます。そもそも遡上数が少ない中でさらに親魚を捕ることができず、捕るためにはウライや建網を直す必要があり、さらに経営を圧迫するという事態となっています。また、沿岸や河川の復旧工事も必要ですが、それらも親魚の遡上や稚魚の流下に少なからず影響があると考えられます。 

 三陸の人々は古くからサケと付き合ってきましたが、サケが不漁のため、サーモン養殖への転換が進んでいます。大槌では、新巻鮭発祥の地ということをプライドとして古くから「鮭まつり」を開催してきましたが、もうサケが捕れずお祭りもできないということで、お祭りすらもサーモンに変えていくという事態が起きています。これが悪いというわけではなく、問題は、なぜ「サーモン祭り」なのかということが受け継がれていないということです。「サーモン祭り」は昨年で5回目だったため、今の小さな子どもたちは「サーモン祭り」がデフォルトになっています。「鮭まつり」があったことも知らないですし、なぜサーモンなのかということもよくわかっていないのです。このように、サケへの無関心化が加速しているというのが、今の三陸の状況です。

新潟県村上市の事例

写真4 村上市に伝わる伝統的なサケの加工品「塩引き鮭」
写真4 村上市に伝わる伝統的なサケの加工品「塩引き鮭」

 悲しい話ばかりが続いたため、最後に少しだけ、こんな話題も提供したいと思います。昨年、種川制度発祥の地である新潟県村上市へ行ってきました。村上市では、塩引き鮭が有名です(写真4)。私は鮭づくし御膳をいただいたのですが、実は、これは村上のサケではありません。村上ももうあまりサケが捕れないため、北海道から仕入れています。それでも、伝統的な調理法などを維持し、鮭をローカルアイデンティティあるいはシビックプライドとして守っています。このようなやり方は、三陸でも取り入れられるのではと感じました。

 少し駆け足でしたが、私からの報告を終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

※種川制度

 川に分流(種川)を設けてサケを誘導し、産卵させ、産卵が終わるまで親魚を禁漁とし、春の稚魚の降下時期には川漁を一切禁止とするサケの自然孵化増殖システム。江戸時代中期に村上藩士・青砥武平治が考案。これにより三面川のサケ資源は大きく回復し、村上藩の財政を支えたとされている。


講演2 知床の森と海をつなぐカラフトマスの今

野別 貴博(公益財団法人知床財団)

 知床財団の野別と申します。私からは「知床の森と海をつなぐカラフトマスの今」というタイトルでお話しさせていただきます。昨年2025年に、知床は国立公園指定60周年、世界自然遺産地域登録20周年を迎えました。北海道内には7つの国立公園がありますが、そのうち知床だけが世界自然遺産に登録されています。知床世界自然遺産地域は、海岸線から3kmの海域も含まれるのが1つの特徴です。私は、1995~2002年に知床の海をフィールドとして調査をしたことが、知床と関わることになったきっかけです。2006年から知床財団に勤めており、ダムの改良の効果を確かめるためのサケ類の調査を始めています。サケ類との関わりは、ここ20年ということになります。

知床世界自然遺産とカラフトマス

 まず、知床が世界自然遺産になった理由をご紹介します。世界自然遺産に登録されるには、「地形・地質」「生態系」「自然景観」「生物多様性」の4つの評価基準のうちいずれかが認められる必要があります(表1)。知床は「生態系」「生物多様性」の2つが認められて世界遺産になっています。具体的には、「生態系」については、北半球で最も低緯度で流氷が見られる点と、海洋と陸上が連続した複合生態系の顕著な例であるという点が評価されました。「生物多様性」については、多様な自然環境、北方・南方系両方の種の多様さ、シマフクロウやオジロワシなどの国際的に重要な希少種の保全に重要な地であるという点が評価されました。ここで強調したいのが、海洋・陸上が連続した複合生態系の顕著な例という点で、その立役者が、今日ご紹介するカラフトマスです。

1 世界自然遺産の評価基準
評価項目 評価基準
地形・地質 過去の生命の歴史や地球の歴史の証拠となるような、重要な地形・地質等がよく現れている地域
生態系 現在も進行中の生物の進化や生物群集の見本となるような、極めて特徴のある生態系を有する地域
自然景観 ひときわ優れた自然美を持った自然現象や景観を有する地域
生物多様性 絶滅危惧種の生息地や、生物多様性の保全上最も重要な生物が生息・生育する地域
写真1 アカイワ川に遡上する多数のカラフトマス(2018年)
写真1 アカイワ川に遡上する多数のカラフトマス(2018年)

 海と陸がどのように繋がっているのかを、動画で見ていただこうと思います。これは、知床半島の先端部にあるアカイワ川の、2018年の様子です(写真1)。とても小さな、沢のような川なのですが、無数のカラフトマスが遡上していく様子がわかります。このように、海で蓄えた栄養分を、川を通して陸上へ運び上げます。これが知床の生態系の大きな特徴です。このような様子が、かつては見られていました。

 カラフトマスという魚について、生態などを簡単にご紹介します。体サイズは、サケよりも一回り小さく、40~60cmです。寿命は、サケは3~5,6年と言われていますが、カラフトマスはほとんどが2歳です。サケと同様、卵を産み終えたら死んでいきます。国内で遡上するのは、主に北海道の北東部の河川で、根室地方からオホーツク海沿岸の河川です。遡上時期は8~10月と、サケよりも若干短めです。そして、カラフトマスの大きな特徴の1つに、生まれた川に戻る習性が、他のサケ類よりも強くないということがあります。また、川で生まれた稚魚が降下するのは、主に4~5月です。孵化し、砂利の中から浮上すると、多くの稚魚がその日の晩のうちに海へ下るという特徴もあります。

 知床でカラフトマスがどのように利用され、どのように生態系へ影響を与えているのかをご紹介します。これは、ヒグマがカラフトマスを捕食しようとしている様子です(写真2)。珍しく、この親は3頭の子グマを連れていました。親グマが、川に頭を突っ込んで魚を探していますね。ヒグマが魚を捕って食べる際は、川の中では食べず、河原や茂みに運んでから食べます。カラフトマスがたくさん遡上する時期には、食べ残すことも多くあります(写真3)。食べ残された魚は、いずれ森の土に還っていき、植物などに利用されます。ヒグマの糞の中に白い丸いものが見えますが、これはカラフトマスなどの魚の背骨です(写真4)。このような糞も、土に還って植物の糧となります。ヒグマの食べ残しは、キツネやトビ、オジロワシなどの動物にも利用されます。これらの動物の糞もまた、広く陸域に運ばれて森に還っていきます。ハエやその幼虫もカラフトマスの死骸を大いに利用しており、秋の川の周りには腐った魚の臭いが充満することもあります。それくらいたくさんのカラフトマスが遡上するということです。また、川の中では、産卵行動をするカラフトマスの下流側にヤマメやオショロコマが待機しており、産卵後に砂利をかけて埋める前の卵を奪って食べる光景も、秋になるとよく見られました。川の中にあるカラフトマスの死骸を裏返すと、水生昆虫が付いていることもあります(写真5)。死骸の表面が黄色く見えることがありますが、これは微生物によるものです。微生物も利用しながら死骸の分解が進み、溶けていきます。このように、カラフトマスはいろいろな過程を踏んで陸域へ還っていきます。

写真2 カラフトマスを探すヒグマ
写真2 カラフトマスを探すヒグマ
写真3 河原に残されたカラフトマス
写真3 河原に残されたカラフトマス
写真4 魚の背骨が含まれたヒグマの糞
写真4 魚の背骨が含まれたヒグマの糞
写真5 カラフトマスの死骸に付いた水生昆虫
写真5 カラフトマスの死骸に付いた水生昆虫

知床のカラフトマスの今

写真6 ルシャ川での調査の様子
写真6 ルシャ川での調査の様子

 世界自然遺産地域は、国や道がしっかりと管理していくことになっています。知床では長期モニタリング計画があり、遺産登録時の自然状態に変化がないかを調査しています。その中で、「河川内におけるサケ類の遡上数、産卵場所・産卵床数及び稚魚降下数のモニタリング」というものが調査項目として位置付けられています。対象種は、遡上数・産卵床数調査はカラフトマス、稚魚降下数調査はカラフトマスとサケです。対象河川は、斜里町側のルシャ川とテッパンベツ川、羅臼町側のルサ川の3河川です。これらの調査は、遺産登録された7年後の2012年に開始され、遡上数・産卵床数調査と稚魚降下数調査はそれぞれ隔年で実施することになっています。これから紹介する産卵床数調査は、カラフトマスの遡上・産卵のピークである9月下旬と10月上旬の2回実施し、数が多かった方をその年の結果としています。

 これは調査風景の写真です(写真6)。ヒグマが何頭もいる中で普段から調査をしてきました。ヒグマからしたら、「あの人また来ているな」という感じなのだろうと思います。私は私で「調査をしたいから、早くカラフトマスを捕って川から離れてくれないかな」と思っています。彼らの餌捕りと私の調査が共存している状態でやってきました。

図1 ルシャ川におけるカラフトマス産卵床数の経年変化(データ出典:令和7年度第2回河川工作物アドバイザー会議資料)
図1 ルシャ川におけるカラフトマス産卵床数の経年変化(データ出典:令和7年度第2回河川工作物アドバイザー会議資料)

 このグラフは、ルシャ川における産卵床数の経年変化を表しています(図1)。横軸が年、縦軸が産卵床数です。抜けているところは調査を実施していない年です。カラフトマスは遡上数が多い年と少ない年を繰り返しますが、その繰り返しがありながらも、右肩下がりに減少しています。2013年には2,000床以上ありましたが、2024年には6床、2025年にはなんと0床でした。

写真7 ルサ川で確認されたカラフトマス稚魚(2025年5月)
写真7 ルサ川で確認されたカラフトマス稚魚(2025年5月)

 2024年に僅かですが産み落とされた卵から生まれた稚魚の降下調査を、2025年春に行いました。崖崩れの影響で、その時期にルシャ川へ行くことができなかったため、半島の反対側(羅臼町側)のルサ川で調査を行いました。ルサ川で2024年秋に確認した産卵床はわずか1床でしたが、2025年5月20~26日にカラフトマスの稚魚をわずかに確認することができました(写真7)。サケ稚魚と違い、頭が少し大きく見えるのがカラフトマス稚魚の特徴です。調査で採集したカラフトマスの稚魚数を、河川の流量などで引き伸ばすと、約1,000尾の稚魚が2025年にルサ川から降下したという推定ができました。知床の川でカラフトマスの命が繋がっていることは確認できました。

カラフトマスの遡上時期が早まっている?

図2 ルシャ川におけるカラフトマス産卵床数(河川工作物改良効果検証調査での結果)(令和7年度第2回河川工作物アドバイザー会議資料を改変)
図2 ルシャ川におけるカラフトマス産卵床数(河川工作物改良効果検証調査での結果)(令和7年度第2回河川工作物アドバイザー会議資料を改変)

 先ほど、2025年秋のカラフトマスの産卵床数が0床だったという、長期モニタリングでの結果をお伝えしましたが、果たしてこの調査日以外にも遡上・産卵はなかったのでしょうか?例年、9月下旬と10月上旬がカラフトマスの遡上・産卵のピークだったため、長期モニタリングではその時期に合わせて調査をしており、その結果は0床でした。ただ、これとは別に、8月26日、9月3日、9月10日にもルシャ川で産卵床調査を実施しており、その調査の際にはカラフトマスの産卵床を確認することができました(図2)。産卵床だけでなく、カラフトマスの親魚も4~25個体を確認できました。かつてのピークよりも少し早めの時期に確認されたということで、カラフトマスの遡上時期が早まっているかもしれないということがわかりました。

気候変動とカラフトマス

 これは、1968年から羅臼漁協が毎日記録している、水深13m地点の海水温の年変動を表したグラフです(図3、図4)。年平均水温は右肩上がりに高くなっており、2023年は8.89℃と過去最高、2025年はそれに次ぐ8.69℃という高さでした。また、カラフトマスの遡上時期である9月の平均水温を見ると、直近4年間は18~19℃近くと非常に高い状態が続いていることがわかります。この高水温が、カラフトマスの遡上に大きく影響しているのではないかと考えられます。

 

図3 羅臼町沿岸の水深13m地点における年平均海水温の経年変化(データ出典:羅臼漁協データ)
図3 羅臼町沿岸の水深13m地点における年平均海水温の経年変化(データ出典:羅臼漁協データ)
図4 羅臼町沿岸の水深13m地点における9月の平均海水温の経年変化(データ出典:羅臼漁協データ)
図4 羅臼町沿岸の水深13m地点における9月の平均海水温の経年変化(データ出典:羅臼漁協データ)

 まとめとしましては、知床の海と陸を繋ぐ大切な魚であるカラフトマスは、ここ数年で遡上数・産卵床数が著しく減少しています。ただし、2025年春に僅かですが稚魚の降下を確認でき、8~9月前半には産卵床も確認できています。このことから、知床のカラフトマスの命の輪はまだ途切れていないと言えます。ただ、近年は、特に9月の沿岸水温が非常に高い傾向にあります。なお、今日はデータとしてお示しできておりませんが、河川水温には大きな変化はないというのが知床の現状です。

 私からの話題提供は以上です。ありがとうございました。


講演3 札幌のサケとサクラマスの今

有賀 望(SWSP/札幌市豊平川さけ科学館)

  皆さん、こんにちは。SWSP共同代表で、札幌市豊平川さけ科学館の有賀と申します。私からは、札幌のサケとサクラマスについてご紹介します。

図1 2025年9月上旬の平均海面水温(左)およびその平年差(右)(出典:気象庁発表資料)
図1 2025年9月上旬の平均海面水温(左)およびその平年差(右)(出典:気象庁発表資料)

 まず初めに、皆さんにお配りしているチラシの裏の図についてご説明します。これは、2025年9月上旬、ちょうど札幌にサケが戻ってくる頃の海面水温を表しています(図1)。北海道周辺では平年より4℃以上高い水温も見られ、東北の沿岸ではサケの致死水温とされる24℃を超えるような水温帯があることもわかります。サケの回帰時期に海水温が高いと、日本に戻ってくる時期が遅れるほか、卵の発育に異常が出るなどの影響があると言われています。

札幌のサクラマス

図2 サクラマスの生活史(出典:鮭と鰻WEB図鑑)
図2 サクラマスの生活史(出典:鮭と鰻WEB図鑑)

 それでは、サクラマスの生活史を簡単にご紹介します(図2)。サクラマスは、サケと同様に川で生まれますが、サケとは異なり1年間は川で過ごします。その後、川から海に降りるものと、川に残るものとに分かれます。札幌では、メスは全て海に降り、オスの一部は川に残ります。海で1年間過ごした後、サケよりも早い4~8月に川に遡上し、夏の間は川で過ごします。秋の産卵期には、川に残っていた残留型と呼ばれるヤマメと、海から戻ってきた回遊型のサクラマスが一緒に繁殖するという、サケよりも複雑な生活史を持ちます。

 札幌にはサクラマスの遡上する河川がたくさんあり、さけ科学館では産卵床の分布を毎年調査しています。昨年2025年は、石狩川の支流の豊平川、その支流の真駒内川・精進川・山鼻川、新川の支流の琴似発寒川・中の川、琴似発寒川の支流の左股川、そして星置川の、計8河川で産卵床を確認しています。サクラマスが遡上・産卵している川はこれ以外にもあると思われますが、さけ科学館で調査を行った結果がこちらです(表1、図3)。この中で特に数の多い琴似発寒川と真駒内川を比較すると、昨年の琴似発寒川は産卵床数がやや少ない結果であったことがわかります(図4)。SWSPのXで投稿しましたが、実は、琴似発寒川では夏の間に死んでしまっているサクラマスが数多く確認されました。7月のその日の河川水温は約23℃もありました。夏の高水温の影響で親魚の数が減り、産卵床数も少なくなったと考えられます。琴似発寒川は豊平川よりも流量が少なく、自然の川岸が少ない都市河川では、夏の水温上昇による影響が出やすい可能性があると考えられます。

表1 サクラマスの産卵床数
水系 河川 産卵床数
石狩川 豊平川 206
真駒内川 604
精進川 54
山鼻川 18
新川 琴似発寒川 248
左股川 94
中の川 65
星置川 星置川 7
図3 サクラマスの産卵床分布
図3 サクラマスの産卵床分布
図4 琴似発寒川および真駒内川のサクラマス産卵床数の経年変化
図4 琴似発寒川および真駒内川のサクラマス産卵床数の経年変化

豊平川のサケ

図5 豊平川におけるサケ遡上数の経年変化
図5 豊平川におけるサケ遡上数の経年変化

 次に、サケの紹介です。豊平川では、都市化に伴っていなくなったサケが、市民によるカムバックサーモン運動によって蘇りました。現在では、放流由来ではなく豊平川生まれの野生サケを増やすため、川の環境の改善活動を行っています。昨年も市民の皆さんとこの活動を行いました。

 こちらは、豊平川のサケの遡上数を示したグラフです(図5)。横軸が年、縦軸が遡上数を表しています。この遡上数とは、親魚を捕獲しているわけではなく、産卵床数を数えてメスの個体数を推定し、それを2倍してオス・メス合計の遡上数としています。例年は1,000尾ほど遡上していますが、2025年はその約1/5の228尾で、過去最低という結果でした。内訳を見ると、4年魚(2021年生まれ)と5年魚(2020年生まれ)がほとんどで、3年魚(2022年生まれ)はほとんど見られませんでした。市民の皆さんと実施した産卵環境の改善場所では、親魚の目撃はあり、「みんなでサケさがそ!」にもその写真が投稿されましたが、残念ながら産卵床を確認することはできませんでした。2022年には、実は20年ぶりに2,000匹を超えるサケが豊平川に遡上したのですが、それに比べて2025年はかなり少なかったということがわかります。遡上親魚は例年4年魚の割合が高く、今年2026年の秋は、遡上数の多かった2022年に生まれたサケが4年魚として帰ってくる年です。そのため、今年の秋は遡上数が多いことを期待したいのですが、昨年の遡上親魚に3年魚がほとんどいなかったため、少し心配しています。

図6 豊平川と千歳川におけるサケ遡上数の経年変化
図6 豊平川と千歳川におけるサケ遡上数の経年変化

 こちらは、豊平川と同じ石狩川の支流である千歳川の遡上数を加えたグラフです(図6)。左の縦軸と棒グラフが豊平川の遡上数、右の縦軸と折れ線グラフが千歳川の遡上数を表しています。千歳川では孵化放流事業が行われており、豊平川の100倍以上のサケが遡上します。豊平川と千歳川の遡上数のグラフを重ねてみると、同じように増減しており、昨年は千歳川もとても少ないという結果でした。これを見ると、昨年豊平川で遡上数がとても少なかったのは、豊平川だけの問題というよりも、石狩川水系全体の傾向であったと考えられます。

図7 サケの全国来遊数(上)、北海道日本海区来遊数(中)および豊平川の遡上数(下)(出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所)
図7 サケの全国来遊数(上)、北海道日本海区来遊数(中)および豊平川の遡上数(下)(出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構水産資源研究所)

 こちらの上2つのグラフは、水産資源研究所がまとめている、12月末までのサケの来遊数です(図7)。来遊数とは、河川などの内水面で捕まえられた捕獲数と、8月以降に日本沿岸の海面で捕まえられた漁獲数の合計です。全国的な傾向としては、日本に戻ってくるサケは、2004年頃から減少を続けています。北海道日本海区だけを見ると、全国とは異なり右肩下がりではありません。そして、2022年はとても多い結果でしたが、2025年は大きく落ち込んでいます。豊平川は、北海道日本海区と同様の傾向であり、2025年はより顕著に少なかったかなという印象を持っています。

図8 豊平川におけるサケの放流数および回帰数の経年変化(2022年以降に生まれたサケはまだ回帰していない)
図8 豊平川におけるサケの放流数および回帰数の経年変化(2022年以降に生まれたサケはまだ回帰していない)

 こちらのグラフは、豊平川におけるサケの放流数と回帰数を表しています(図8)。横軸がサケの生まれ年(年級)です。例えば、2000年に生まれたサケは2003年に3年魚、2004年に4年魚、2005年に5年魚、2006年に6年魚として戻ってきます。棒グラフは親魚の回帰数を表しており、先ほどのグラフに比べ、生まれ年による変動が大きいことがわかります。これは、稚魚が川から海に出た時の生残率が、年によって大きく異なるためと考えられています。折れ線グラフは稚魚の放流数を表しており、豊平川では2014年級までは約20万尾を放流していましたが、SWSPが結成されて以降は5~8万尾に減らしています。そして、稚魚の放流数を減らしても、目標である親魚の遡上数1,000尾が維持されているということで、野生サケの割合を増やすため、2024年級、つまり2025年春からはさらに放流数を減らしました。市民が参加する体験放流や小学校の放流等のみとし、6,000尾の稚魚を放流しました。稚魚の放流数を減らすと、遡上する親魚は自然産卵由来の野生サケの割合が多くなりますが、昨年のような少ない遡上数が続いてしまうと、自然産卵の数が減少し、豊平川に遡上するサケが減ってしまうことが懸念されます。ただ、海の環境の変化や温暖化による影響を考えると、放流数を以前の数まで増やしても解決できないということも予想されるため、今後の対応が難しいなと感じています。

札幌市内の他河川との比較

― 稚魚の放流とダムの有無 

 最後に、札幌市内の他の河川におけるサケの産卵状況についてもご紹介します。さけ科学館では、豊平川以外に琴似発寒川や星置川でもサケの産卵床調査を行っています(図9、図10)。グラフの縦軸の数値からわかるように、琴似発寒川と星置川の例年の産卵床数は、豊平川よりも小さな規模です。しかし、豊平川で産卵床数が非常に少なかった昨年も、琴似発寒川と星置川では例年並みの数が確認されており、右肩下がりの傾向も見られませんでした。琴似発寒川においては、豊平川よりも多い数の産卵床を確認できました。豊平川と何が違うのかを考えてみると、琴似発寒川は稚魚の放流を行っていないため、遡上する親魚は100%が琴似発寒川生まれの野生魚です。そして、琴似発寒川は上流に貯水ダムがないため、水量の調節が行われていません。これは昨年の豊平川の様子ですが、9~10月は水量がとても少なく、いつもは水に浸かっている場所が干上がっている状態でした(写真1)。河川水温も高く、サケが群れで遡上するというタイミングがなかったと感じています。気候変動により降雨量が変化している中で、豊平川は上流にダムがあり、さらにダムによる流量調整が加わると、サケの遡上のタイミングや産卵環境の維持に影響が出ている可能性も考えられます。

図9 サケの産卵床分布
図9 サケの産卵床分布
図10 サケの産卵床数の経年変化
図10 サケの産卵床数の経年変化
写真1 水位が低い豊平川の様子(2025年10月)
写真1 水位が低い豊平川の様子(2025年10月)

 豊平川のサケの遡上数は減少している状況ですが、これからもモニタリングを続け、遡上数が維持されている河川との違いなども見ながら、できることを考えていきたいと思っています。

以上です。ありがとうございます。


パネルディスカッション

荒木 仁志(SWSP/北海道大学)

 北大農学部の荒木です。私自身もサケマスの研究をしていますが、3つのご講演でいろいろなデータを見せていただき、パネルディスカッションのコーディネーターを引き受けたことを大いに後悔しています(笑)。厳しい状況の話が続いたため、皆さんが暗い気持ちになってしまったのでは?と少し不安ですが、これから私たちに何ができるかということをお話しできたらと思っています。

 まず、個々の講演に関しての質問を受け付けようと思いますが、ご質問のある方はいらっしゃいますか?それでは、まず私から振らせていただきます。先ほど有賀さんから、水位のことなど、現場に立たれたからこそ見えてきたものがあったと思います。知床や大槌では、魚が減ったということ以外で、その川に行ってみて何か変化を感じることはありますか?

野別 貴博

 私の調査では、ヒグマに出会うことが少なくなりました。調査はやりやすくなっていますが、いないならいないで寂しいなというような感覚ですね。いろいろな生き物がカラフトマスを利用するという話をさせていただきましたが、カラフトマスの減少に伴い、そのような生き物たちに出会うことも少なくなったという大きな変化を感じています。

 

荒木 仁志

 知床らしさが失われた現場がある、というイメージですね。

 

野別 貴博

 そうですね。かつてとは大きく違った状況になっています。

 

荒木 仁志

 ありがとうございます。大槌はいかがでしょうか?

峰岸 有紀

 もともと大槌は、知床のようなとても自然豊かなところというよりは、すごく市街地化している環境のため、変化もそれほどではないという感覚です。ですが、野別さんのお話を聞きながら、そういえばハエがたかっているようなサケの死骸や、死骸を食べるカラスの姿を全然見なくなったなということは感じました。それが温暖化の影響かどうかはわかりませんし、何の根拠もないただの肌感覚ですが、全体的に生き物が減っているなと私も感じています。

 

荒木 仁志

 サケマスが海から陸に資源を持ち込むというリンクが、場合によっては断たれてしまい、陸の栄養も乏しくなっているかもしれないということですね。水の中の遠い世界の話のように聞こえるかもしれませんが、そういう意味では我々ともつながっている話なのかなという気がしますね。会場からはいかがですか?

 

会場

 知床にオオセグロカモメとウミウの大コロニーがあるかと思いますが、それらの個体数もすごく減っていますよね。昨年行った際、おそらく以前の1/5ほどに減ってしまっていました。彼らの餌は魚なので、魚が減ると鳥も減ってしまうのかなと感じました。

 

野別 貴博

 そうですね。サケマスはいろいろな生き物に利用されているため、鳥にも少なからず影響があるのかなと思います。

 

会場

 そうですよね。オオセグロカモメとウミウはどちらも魚を食べますが、捕り方が違います。カモメは突っ込んで捕りますが、ウミウは潜って捕ります。やはり魚が少なくなれば鳥の繁殖数も減るのかなと思います。きっと影響はありますよね。

 

野別 貴博

 はい。私の話の最後にもありましたが、海水温が右肩上がりに上昇しているため、サケマスのみならず、いろいろな魚に影響が出ていると思われます。

 

荒木 仁志

 この後のポスター発表で、知床の川を象徴するオショロコマというイワナの仲間が、河川水温の影響をどう受けているかという内容の発表があります。前年の夏の水温が高いと、オショロコマの個体数が減ってしまうというデータが得られています。これも、おそらくシマフクロウなどの鳥に大きく影響するのではないかと思います。

 

気候変動に対するサケマスの適応と多様性の可能性

荒木 仁志

 それでは、パネラー間でのディスカッションに移ろうと思います。3つのご講演はいずれもなかなか厳しい状況という内容でしたが、その中でも、種ごとあるいは川ごとに影響の出方が違うのかなという印象を受けました。温暖化というのはグローバルなスケールで起きている現象ですが、種ごとや川ごとに受ける影響の大小が違うようですね。全部が全部悪くなり生き物がいなくなってしまうという状況を避けるために、多様性のようなものが何かヒントにならないかな?と思うのですが、それについてはどうお考えでしょうか。例えばカラフトマスで言えば、知床でこれだけ減ってしまうということは想定もしていなかったことだと思いますが、世界的に見ると、北極圏に分布を拡大していて、本来は「太平洋サケ」のはずが大西洋の川に遡上しているというニュースもあります。つまり、種としていなくなろうとしているというよりは、彼らは彼らなりに環境の変化に適応しようと、何か違う生き方を探しているというようにも考えられます。温暖化が人間活動に起因するという意味では悪いニュースなのかもしれませんが、その生き物がこの世からいなくなるかというとそうではなく、彼ら自身が生き延びる方法を探しているようで、それ自体は必ずしも悪いニュースではないようにも思います。そのような彼らの適応戦略というものが、私には希望に見えています。そして、世界から消えてしまわないことが大前提ですが、なんとか日本の川にも残ってくれることを望んでいて、次世代に受け継いでいきたいとも思います。そのようなことについて、お互いの講演を聞いて考えたことでも良いのですが、ご意見等があればお話しいただけますか?ご自身が調査研究されている種とそれ以外の種を比較してのお話でも良いです。こういうことならできるのではないか、などもあれば。

 

野別 貴博

 有賀さんのお話で、孵化放流が行われていない川はそこまで顕著に減っていないという内容がありましたが、実は知床でも同じ現象を感じています。孵化放流が行われておらず、魚道が作られたことでカラフトマスやサケの産卵エリアが上流に拡大した川があります。2025年の知床は、カラフトマスだけでなくサケの漁獲量・遡上量もとても少なかったのですが、その川についてはむしろ増えているというような状況が見られました。釣り人が集中してしまうくらい、多くのサケが遡上しました。小さな川であっても、野生魚だけで成り立っているような川を大事にしていくことが鍵になっていくのかなと思っています。

 

峰岸 有紀

 私は、有賀さんの発表にあった、野生魚だけの川はあまり減っていないというデータを見て、実は結構ショックを受けていました。というのも、私が調査している川も野生魚だけなのです。私の講演の中で申し上げた通り、大槌はサケの分布の南限ぎりぎりです。おそらくですが、そのために温暖化の影響が強く出てしまったり、サケが適応するよりも早く環境が変化してしまったりしたのが三陸なのかなと感じました。北海道はまだ大丈夫かもしれない、という希望も少し持ったところです。

有賀 望

 今話に出していただいた琴似発寒川なのですが、護岸が張られていたり、河床にブロックがあり、その切れ目が落差になっていたりと、すごく良い環境かと言われると実はそうでもないのです。ただ、湧き水と砂利のある場所に産卵するサケにとっては、それが維持されているために次の世代を残せているのかなと思います。また、中の川や濁川という、琴似発寒川と同様に新川の支流であり、琴似発寒川よりさらに小さくて護岸もされている川でも、2025年はサケの遡上・産卵がありました(図1)。数は多くはないのですが、環境の違う河川が同じ流域にあり、それが維持されている状況です。遺伝子を調べている方によると、琴似発寒川のサケには、豊平川とも千歳川とも違う遺伝子があるようです。その違いも含めて、将来的に、多様性があることは大事なのかなと思います。

図1 サケの産卵床分布
図1 サケの産卵床分布

サクラマスに見える希望

― 河川内の越夏環境が鍵

荒木 仁志

 ご講演の中でサクラマスのデータもありましたが、サクラマスは必ずしも減っていませんでしたよね。

図2 琴似発寒川および真駒内川のサクラマス産卵床数の経年変化
図2 琴似発寒川および真駒内川のサクラマス産卵床数の経年変化

有賀 望

 はい、サクラマスはどの川でも減ってはいません。琴似発寒川は、グラフを見ると、増減を繰り返しているように見えます(図2)。新川水系の琴似発寒川は、豊平川水系に比べると規模が小さいため、水量も少なく、暑い夏を乗り切るために必要な、水温が低く保たれる大きな淵も少ないなと感じます。豊平川水系は、真駒内川という支流にたくさんのサクラマスが遡上するのですが、夏の間からその川にいるわけではなく、水深が深くて水温が低く保たれる環境がある豊平川で夏を越し、産卵の時に真駒内川に入ってくるという形なのだと思います。暑い夏を凌ぎづらいということが、サクラマスにとっての琴似発寒川の問題点かなと思います。

 

荒木 仁志

 サクラマスは、サケやカラフトマスに比べると、海洋への依存性が低い種ですよね。海水面の温度上昇の影響を比較的受けにくいということもあるのでしょうか。

 

有賀 望

 サクラマスは、サケより早い時期である春~夏に、海から川へ遡上します。サケのように、海水面の温度が高くて遡上してこない、ということとは違うのではないかと思います。

 

荒木 仁志

 川の中に夏を凌げる場所があれば、サクラマスは他の種ほどは地球温暖化・水温上昇の影響を受けにくい、と考えても良いかもしれませんね。

 

有賀 望

 今のところ、札幌市内ではそう見えます。

 

荒木 仁志

 数少ない希望を探すと、サクラマスはまだ大丈夫そうかな、という点かなと思います。

今、私たちにできること

荒木 仁志

 そして、非常に厳しい状況であるカラフトマスや三陸のサケを、なんとか我々の代で絶やさずに、次世代に繋ぎながら解決策を探していくことが必要だと思いますが、何をどうしたら良いのでしょうか?地球温暖化は、我々だけでは今日すぐにはどうこうできません。一市民として、今日からできることは何かあるでしょうか?

 

峰岸 有紀

 三陸や本州は結構危機的な状況で、何かをしたらすぐに本州にまたサケがたくさん戻ってくるかというと、そんなに簡単なことではないと思います。その一方で、北海道や大陸などと違い、三陸のサケは遡上時期・産卵時期・流下時期・湾内滞留期が非常に長いという、ある意味で緩い生活史を持っているからこそ今まで生き延びてきたのではないかとも考えられるため、まだポテンシャルはあるのかもしれないとも思っています。その上で、私も含めて一市民ができることとしては、他人に強要することではありませんが、「関心を失わないこと」が挙げられると思います。目の前からいなくなってから「関心を持ってください」と言うのは難しいですが、皆さんが「サケいるかな?」と川を覗くことも、関心を持ち続けるということの1つかなと思います。北海道ではまだそれが可能ですから、ぜひ皆さんに関心を持っていただいて、さらにお友達やご家族などにも伝えていただけたら嬉しいなと思います。

 

荒木 仁志

 ぜひ「大槌サーモン祭り」ではなく「大槌 -サケが遡上してこないので- サーモン祭り」という名前で開催していただけると、啓蒙にもなるかと思います。野別さんはいかがでしょうか。

 

野別 貴博

 私は、カラフトマスが減りきった状況を記録しておくことが、自分の仕事だと思っています。そして、私の希望的観測かもしれませんが、このまま温度が上がり続けるのではなく、どこかで頭打ちになったり下がったりするようなことがあるかもしれません。その時には、再びたくさんのカラフトマスやサケが知床や日本に戻ってくるのではないかと思います。それがいつになるかはわかりませんが、戻ってきたカラフトマスやサケたちが心地よく再生産(繁殖)できる川を、今のうちに作っておくこと。これが今私たちにできることであり、やるべきことなのではないかなと思います。

 

荒木 仁志

 ありがとうございます。家出した子どもを待つ親のような心境ですが、近い状況かもしれないですね。有賀さんはいかがでしょうか。

 

有賀 望

 峰岸さんと同じですが、札幌にはまだサケやサクラマスが遡上している川があり、今ならまだそれを見に行くことができます。ぜひ、今のうちに皆さんに見てほしいですね。そして、今日ポスター発表に来てくれている高校生の方々が、サクラマスの産卵環境の改善などをしてくれているように、自分たちの手でできることもあると思います。簡単なことで言えば、例えば川にサケを見に行って写真を撮り、「みんなでサケさがそ!」に投稿することもとても良いと思いますし、関心を持ってもらうきっかけになることもあると思います。何年後かにはまた違う状況になっているかもしれないので、その時のためにも、ぜひ今の状況を知り、覚えておいていただけると良いのかなと思います。

 

荒木 仁志

 はい、ありがとうございました。時間になりましたので、パネルディスカッションはここまでにしようと思います。ありがとうございました。


 後半はこちら

  ・ポスター発表

  ・市民調査「みんなでサケさがそ!」フォトコンテスト優秀作品

  ・豊平川の自然や野生サケを保全するためにできること

  ・閉会のごあいさつ 岡本 康寿

  ・来場者のアンケート結果

  ・「ちびリンまんが⑮豊かな海になる理由」かじさやか

  ・2025年度SWSP活動記録

  ・SWSP支援企業のご紹介

  ・SWSP STAFF